失恋を願う

「妹の恋路を邪魔しようなんて、馬に蹴られて死んじゃうよ」


言われなくてもわかってる。

シスコンという自覚も…なくはない。

けれど、僕だって相手がフツーの男なら

闇雲に反対なんてしない、たぶん。

よりにもよって、妹の恋した相手はバーテンダーだ。

こればっかりは許すわけにいかない。

なぜなら、バーテンダーというのはすべからく、

女にだらしなく、いい加減で、嘘つきだからだ。



小さい頃、妹は身体が弱かった。

ちょっとしたことですぐ風邪をひき、熱を出し、

あっという間にこじらせては入院ばかりしていた。

そんな妹に両親はかかりきりで、

ほんの少し疎外感を覚えていた僕は、

小さな脳みそをフル稼働して、

妹を守ることで、家族の中で居場所を作ろうとしたらしい。


妹が泣かされたりしないように。

いつも笑っていられるように。

そばで見守り続けることは、

最初は義務のようなものだった。

それがいつの間にか、当たり前の日常になり、

今では、僕が生きる意味のひとつになっている。

僕にとって、妹とは、そういう存在だ。


だからと言って、妹の恋が叶わないよう願うなんて、

暗い空に隠れている星たちも呆れていることだろう。

それでも、僕は妹の恋が実らないことを祈る。

今ならまだ、深く傷つかずに済むと思うから。


妹の恋する相手が、

女性を大切にする、マジメで、誠実な男であればよかった。

それならば、僕も素直に応援できた、はず。

けれど、それは無理な話だ。

だってそいつは、バーテンダー。

女にだらしなくて、いい加減で、

嘘つきなバーテンダーなんだから。






朗読/山村怜央

ストーリー/いとうかよこ

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