ジャックと悪魔

悪魔   嘘つきでずる賢いジャックとは、お前のことか?

ジャック 嘘つきでずる賢い、か。随分な言われようだが、

     たしかにオレがジャックだよ。

悪魔   そうか。それなら話が早い。

ジャック オレに、一体なんの用だ?

悪魔   あぁ、お前の魂をいただきに来た。

ジャック 何だって?

悪魔   だから、お前の魂を今、ここで、奪うと言っているんだよ。

ジャック 魂を奪うだって? お前は…悪魔か?

悪魔   あぁ、いかにも。

ジャック ちょ、ちょっと待て。どうしてオレの魂を?

悪魔   嘘つきでずる賢いお前は、多くの人の恨みを買いすぎた。

ジャック そんな、バカな。

悪魔   心配するな。ほんの一瞬のことだ。

ジャック いやいや、オレはまだ死ぬ気はない。

悪魔   そうは言っても無駄なこと。これはもう決まったことだ。

ジャック そ、そんな…。

悪魔   今さら後悔しても遅い。嘘つきでずる賢いジャックよ。

ジャック くっ…。そ、それなら、最後にひとつ、オレの願いを聞いてくれるか?

悪魔   最後にひとつ、か。まあいいだろう。言ってみよ。

ジャック あの木になっているリンゴが食べたい。

悪魔   あの木に登れと?

ジャック そのくらいの慈悲をかけてくれてもいいだろう?

悪魔   ふむ。いいだろう。しばし待て。

ジャック あぁ、ありがたい。


悪魔   な、何をしている!

ジャック こうして十字架を木に彫ってしまえば、

     あんたは身動きひとつ取れなくなる。なぁ、そうだろ? 悪魔さま!

悪魔   おのれ! 騙したのか。

ジャック ははは。オレは、嘘つきでずる賢い男だからなぁ。

悪魔   くっ。

ジャック 約束してもらおう。オレの魂を奪ったりしないと。金輪際、二度と!

悪魔   …仕方がない。約束しよう。私はお前の魂を取らない。

     金輪際、二度と、未来永劫な。

ジャック ありがとうよ、悪魔さま。感謝するぜ。


悪魔   お前は、ジャックか。随分と久しぶりだな。

     こんなところで出会うとは。

ジャック あのときの悪魔か。

悪魔   いかにも。お前がここにいるということは、現世での命は…。

ジャック あぁ、寿命が尽きたらしい。

悪魔   して、なぜこのような場所にいる?

ジャック 現世でのオレは決していい人間じゃなかったからな。

     天国には入れないらしい。

悪魔   まあ、自業自得だ。

ジャック 仕方ないから、地獄へでも行こうかと思ってな。

悪魔   そうか、それは残念だな。

ジャック 残念?

悪魔   あぁ。お前は地獄へも入れない。

ジャック どういうことだ?

悪魔   約束したろう? お前の魂は二度と取らないと。

     だから、お前を地獄に連れて行くことはできない。

ジャック じゃ、じゃあ、オレはどこへ行けばいいんだ。

悪魔   さぁな。どこへも行けず、彷徨い続けるんじゃないか。

ジャック 彷徨い続ける? いつまで?

悪魔   いつまでもさ。

ジャック 永遠に?

悪魔   あぁ。そうだ、お前にこの灯りをやろう。

     果てない旅の唯一のともにな。






朗読/岩切裕晃&山口龍海

ストーリー/いとうかよこ

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