サンビタリアの丘で

夢を見ていた。


名前も知らない小さな花が咲き誇る丘で、

キミがとてもうれしそうに笑っている。

ボクに向かって、とても無邪気に。

だから、


「あぁ、これは夢か」


とボクは小さくつぶやく。

キミがボクに微笑みかけることなどないと

知っているから。


出逢った瞬間に終わったボクの恋。

決して手に入れることのできないキミを

それでもボクはあきらめられず、

ただ近くにいたくて選んだボジション。

たとえそれが、悪役でも、嫌われ役でも、

何でもよかった。

キミにボクの存在を刻みつけられるなら、

憎まれても、恨まれても、構わなかったんだ。


小さな黄色い花に囲まれて、キミが笑う。

楽しくて仕方ないという瞳で、ボクを見ている。

とても美しい夢の中、キミが言った。


「…………」


そのことばが、ボクに届くことはないけれど、

空が青くて、やさしい風が吹いて、

キミが笑っている。

それは、なんて幸せな光景なんだろう。


もう二度と逢えないキミに、

ボクが願うことはひとつだけ。


「忘れないで」


たとえ、世界でいちばん嫌いな男でもいいから。







朗読/空閑暉

ストーリー/いとうかよこ

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