オレとアイツのディスタンス

「なんか、うまくいかないよなぁ…世の中って」


さんざん愚痴を撒き散らした後、長いため息をこぼす。

仕事と恋人、ダブルでやってきたトラブルを抱え、

オレはとてつもなく凹んでいた。

なのに、アイツときたら


「ざまーみろ!」

とか何とか言いながら、大笑いしてやがる。

まったく、思いやりとか、気遣いはないのかよ。

まあ、そんなもん、求めちゃいないんだけど。


ええカッコしいなオレは、基本、人に弱みなんて見せない。

同情や慰めは、するものであって、されるもんじゃない。

それが本音だ。

弱みを見せてオンナ心をきゅんとさせてやろうなどと、

セコイ手は使わないのがポリシーだ。


アイツは、オレがどんなに凹んでようと、

同情なんてしやしない。

慰めたりなんて絶対しない。

むしろ、乾杯しながらオレの弱音を笑い飛ばす。

アイツはそういうタイプ。

あわよくば、弱ったオレの心の隙間に

スルリと入り込もうなんて企みなど思いつきもしないのだ。


「これほどわかりやすく凹んでる男を、

 大笑いするか? 普通…」


と、抗議めいたセリフを吐くのとはうらはらに

絶対にアイツに知られないよう、こっそりと

「ありがとう」

と心の中でつぶやいた。


聞こえたはずのない「ありがとう」に

アイツがニヤリと笑った気がした。






朗読/島田陵平

ストーリー/いとうかよこ

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